直近15年、2009年のリーマン・ショックや2020・21年のコロナショックなど、世界的な経済不況を受けながらも右肩上がりで業界規模を拡大し成長を続けていたベトナムの人材業界が2023年も半ばから後半に差し掛かり、いわゆる不況期を迎えています。
おそらくベトナムの人材業界史上初めてのことと言えるでしょう。
※本記事は雑多な内容となりますが、2023年におけるベトナムの現実の理解・把握にお役立ていただけますと幸いです。
国内各新聞でも雇用不況やレイオフに関する記事がいくつかあります。
"Job cuts continue in embattled property sector"2023/6/2
(苦悩する不動産セクターでは解雇が続く)
"Việt kiều, người nước ngoài, sinh viên... bị giảm tuyển dụng"2023/5/31
(在外越人、外国人、新卒学生の採用減少)
"PouYuen to lay off thousands of workers next month"2023/5/14
(PouYuen社*、来月ワーカー数千人のレイオフへ)
*台湾系シューズメーカー
原因として総じて言えることは、
・国内要因としての不動産・建設業不況
・国外要因としての靴・縫製・電子部品・IT不況
これらが相まって、ベトナム国内全体で不況感が漂っているように思われます。
さらに、経済不況が特に厳しいのがベトナム経済の牽引車であり続ける最大都市ホーチミン市。
"HCMC export situation grim as recession hits demand " 2023/5/26
(ホーチミン市の輸出は不況による需要減が直撃し窮地にある)
"HCMC economy facing hardships"2023/4/16
(ホーチミン市の経済は困難に直面している)
"HCMC economy grows 0.7% in Q1" 2023/3/31
(ホーチミン市の2023年第1四半期の経済成長率は0.7%に)
"Difficulties in real estate market to last until late 2024: experts"2023/3/13
(専門家曰く、不動産市況の停滞は2024年末まで続く)
これらのニュースを踏まえて、2023/8の時点で見られるトレンドは下記のとおりです。
■大卒ジュニア・ミドル人材領域での買い手市場傾向が継続中
エンジニアなど高専門性の領域での企業側の必要要件に対する人材側の希望給与のミスマッチが顕著です。また日本語人材の供給過多、特に日本語スキル以外の専門性が無い層に顕著です。ベトナム国内ではもはや日本語ができるだけではキャリア形成は難しくなっています。
■日本国内から帰国するベトナム人の増加傾向
移動制限解除・円安に伴い、日本国内での就業に意義を見いだせなくなっている。日本語スキルのみでは正社員になれず派遣社員として低賃金就業している層も増加。日本国内では専門性の獲得やキャリアアップの可能性が見いだせないと判断している。
■2024年の最低賃金交渉が難航
建設、縫製繊維、不動産など受注減に苦しむ不況業界を中心に、企業側の最低賃金引き上げに対する抵抗が強い。一方、物価上昇(直近7ヶ月のCPI上昇率+3.12%)により大半の労働者は現状の賃金水準に不満を感じている。
すでに政府から多くの支援を受けている企業としてはこれ以上の賃金上昇は事業の存続自体が危ぶまれ、結局労働者が不利益を被るとの見解を示している
■技能実習生の送り出し先として日本が忌避傾向
日本国内において技能実習生といえばこれまでは「ベトナム人」でしたが、今年に入りミャンマー人・ネパール人に取って代わり始めています。送り出し機関及び一部の国内ベトナム人の犯罪行為、そしてベトナム人側の日本国内就業に対する拒否感。これらが背景にあります。
■日系企業の東南アジア拠点が続々とベトナム国内市場に参入
コロナ前まではシンガポール・バンコク・香港などからの遠隔参入、遠隔ハンドリングにより事業を行っておられた企業が今年に入り、続々と営業拠点もしくは駐在員事務所を設立されています。英語が堪能なベトナム人営業職・シニアレベルを雇用されるケースが多いです。
直近10年のベトナム経済を牽引した不動産関連業、また活況を呈した技能実習関連ビジネス、これらに従事されていた人材の大流出が起きています。これらの方々には外国語と営業力に長けた人が一定数おりますが、個人差が激しく見極めが必要です。また縫製関連業・建設エンジニア・日本語人材に失業者が多い傾向が見て取れます。
なかなか希望が見いだせない、メディア記事やトレンドが目立ちますが、下記のような内容もようやく出始めました。
「Signs of economic recovery evident: analysts」/「景気回復の兆しは明らか:アナリスト」
内容としては
・7月の小売売上高は前年同月比+7.1%
・世界銀行のGDP成長率予測は2023年4.7%、24年+5.5%、25年には+6%
・米国/EUは年末にはベトナムからの輸入額を増加させるだろう
・7月には3年ぶりに観光客数が100万人超え
・8/15より観光VISAの期限が15→45日に延長、さらに観光客の増加が見込める
という一部事実ベースはあるものの、希望的観測に基づくものが主です。
Grasp!では今後も引き続きベトナム採用市場・転職市場、及びマクロ・ミクロ経済を注視し、皆様にお役立ちできる情報をお送りしてまいります。
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