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【2010年代ベトナム経済史〜チャイナプラスワンの実態を振り返る】・・・2020年代的高度経済成長を見据えて

更新日:2022年6月15日


文字数:16,746字

読了時間:25分


こんにちは。

今は2020年4月です。

つい3ヶ月前の西暦正月の頃は黄金のベトナム2020年代の幕開けと旧正月休み前の興奮もあり、期待ばかりのワクワクだったのですが、COVID-19の世界的な流行とそれに伴う経済的停滞によりそんなポジティブモードは完全に吹き飛んでしまいました。

一体、これからのベトナムはどうなるのでしょうか。

正直、全然わかりません。

よくわからないのでとりあえず今できることをひとつずつやっていきましょう。


ということで表題の通り、第2次ベトナム投資ブームを終えなんだかんだとありながら、経済成長を続けたベトナム経済の2010年代から昨今までをおさらいしてみましょう。


一言でいうと、色々あったけど。。

「ベトナム躍進の2010年代」

です!





ホーチミン 日の出


【目次と概要】

⚫前説と2010年以前のベトナムの経済状況

・在留日本人とベトナムの経済変化

・ベトナム2000年代と第2次投資ブーム。


⚫年度別概況前半

・07-09年のベトナムドン通貨危機と貿易赤字

・10年:微小回復、ベトナム経済成長方針とマクロ安定方針

・11-13年:ベトナム不景気

・14年:不景気ながらも回復はじまる・・・ベトナム貿易黒字

・15年:ベトナムGDP成長率目標達成、本格的な回復

・16年:目標未達成ながらもさらに順調に回復・・・ベトナム貿易黒字


⚫トピック

「2016~2020年ベトナム経済・社会発展5カ年計画」から見える、2020年のベトナム経済予測〜


⚫ベトナム年度別経済概況後半

・17年:絶好調期突入・・・10年ぶりの内需拡大

・18年2年連続の絶好長期

・19年:好調期は維持するもののやや陰りが


⚫まとめ・・・ベトナム、この10年で何が変わったのか


⚫最後に


【前説】

みなさん、10年前はどこで何をしてましたか?

筆者はベトナムに来たばかりで周りが見えておらずボーッとしてました。

2010年前後はベトナムにはまだ日本人が少なく日本食屋さんも数えるほどでした。

iPhone・MacBookAirもまだ正式には入ってきておらず、当時の日本国内の都市圏の町並みと比べるとふた昔前ぐらいの雰囲気でした。


あのPiaaz4Psさんも2011年にできたばかりで当時はこんな感じでしたね。



ホーチミンPizza4Ps 2011年

おなじみHIGHLANDS COFFEEはもっとレストランじみて洒落た場所として認知されており美味しそうなナシゴレンを食べさせたりアイスコーヒーも21,000VNDでした。今のように小洒落たカフェもバーも他にはそれほど多くありませんでした。

HIGHLANDS COFFEEナシゴレン


ベトナム在住邦人数は


2008年:7,036人

2018年:22,125人


と10年で3倍増えています。

しかし2009年→2010年で900人ぐらい減っているのですが、これはなんだったのでしょうか?

いわゆるリーマン・ショックの影響でしょうが、2017年→2018年は一気に5000人も増えちゃってます。統計偽装なんて朝飯前の我が国ですから、まあなんだかよくわからないですね。

そんなに一気に増えた実感はないのですが。

とはいえ、「なんか最近ベトナム日本人増えたよね」というのは本当らしいです。

若いきれいな女性が増えたなという実感はもっとあるんですが、統計はないです。


在越邦人数推移


一方、在ベトナム日系企業数はどうでしょうか。


2008年:950社

2018年:1920社


1000社を超えたのは2011年、ここ10年で2倍に増えています。

実際には合弁会社や名義貸しなどもあるので、すでに2500社ぐらいあるのではないでしょうか。



在越日系企業数推移

なおベトナム戦争後初の在越日系企業は1986年設立の日商岩井ハノイ駐在員事務所。今の双日様ですね。同社はベトナム戦争中の1970年から北ベトナムと石油取引を行っていたベトナムビジネスのパイオニア。双日様の旧オフィスと思われるホーチミン3区にクラシカルな一軒家があります。


戦前戦中より既に駐在員事務所?として進出されている大手商社もありますね。

司馬遼太郎「中公文庫『人間の集団について―ベトナムから考える』には、日系商社の日本人駐在員が名前入りで登場します。


司馬遼太郎 人間の集団に ベトナム

















【2007-09:ベトナムドン通貨危機】


2007年、ベトナムはWTOに加盟しました。

2000年代初頭からいわゆる「第2次ベトナム投資ブーム」もあり、結構イケイケだったんですね。経済成長爆進中でGDP二桁成長を続けていた中国への対抗心もあったんでしょう。

2007 年 11 月 1にベトナム国会で「翌08年の実質GDP成長率目標を+8.5~9.0%」という決議がなされます。


そんな強気かつ警戒心が薄い中、CPI上昇・インフレ悪化・コモディティの価格上昇による貿易赤字などが原因で2008年にベトナム通貨危機寸前の状態に陥ります。結局、通貨危機自体は緊縮財政・緊縮金融で回避するのですが、そこからベトナムは低成長政策・マクロ経済安定政策に切り替えます。イケイケは辞めて、貿易赤字を減らし、ベトナムドンを安定させましょうと。

そうした中でベトナムマクロ経済もなんとか安定を取り戻し、2008年後半からは段階的にですが金融緩和をすすめます。しかしCPIの上昇率と海外からの投資額を見ながらかなり慎重なもので、2010-11年まではベトナムの経済成長は見込めないという判断がされていたと言えます。


そんなマクロ経済の中、2009年には日越経済連携協定の実施が承認され、関税撤廃が進みました。2009年1月1日にはベトナムでの外資100%によるサービス業への参入が認められました。

日系企業としてはファミリーマート・ベトナム1号店が同年12/23午前10:00にホーチミン1区のNguyen Khach Nhu通りにオープンしました。




弊社Grasp!のような転職支援・採用支援を行う日系人材紹介会社、GA Consulting様、Career Link様、Asahi Tech様などのPioneerがベトナムで事業を開始されたのもこの頃ですね。それまでは日本食レストランなどに求人張り紙がされていたり、インターネットの掲示板(http://jobs.vietnam-life.net/)などで求人と求職者のマッチングなどがされていたようです。


※主な出来事


2007年:ベトナムWTO加盟

2007年:AFCアジアカップがベトナムを含む東南アジア4カ国で共同開催。

日本はベトナムと同グループに入り予選3試合をハノイ・ミーディンスタジアムで戦う。

2006年〜2008年:ベトナムのアパート価格急上昇

2008年ミス・ユニバース世界大会ベトナム、ニャチャン開催

2008年ベトナム男子サッカー代表、AFFスズキカップで初優勝

2008年イオングループ進出

2009年:台風16号でホイアンで死者159名、行方不明15名、負傷者629名



ホーチミン 夕暮れ時


【2010年・微小回復、ベトナム経済成長方針とマクロ安定方針

●GDP成長率6.78%を達成(目標値 6.5%)。過去3年の経済の危機からの順調な回復

●自国通貨ドンの不安定化等,マクロ経済状況は不安定化

●10/8国会で下記の来年目標を発表

・最重要課題「ベトナムマクロ経済の安定とインフレの抑制」

・経済成長率:7.0-7.5%

・輸出総額:10%以上増加

・貿易赤字:輸出額の18%以下 -

・総社会開発投資額:対GDP比40%程度

・物価上昇率:7%以下

・雇用創出:約160万人(うちベトナム国外への労働輸出 87,000人)

・貧困家庭率:2%以下



※主な出来事

・ASEANサミットベトナムハノイ開催

・ベトナムに米インテル、韓国サムスン, LG グループ進出

・Kobelco、ブリジストン、富士ゼロックス進出

・iPhone3Gがベトナムで正式販売開始

・ホーチミン・チョーライ病院設立110周年

・Bitexco Financial Towerが開業

・菅直人総理大臣(当時)が訪越



【2011-13年:ベトナム不景気/マクロ経済安定重視期】

※過去5年と比べて、マクロ経済的には地味な3年間。

中長期的な躍進のためにはベトナムドンの安定・インフレの改善が必須事項として我慢の時期。一方、Starbucks Coffee、Pizza4ps、ミニストップなどが相次いでベトナムで開店するなど内需拡大の息吹を感じる時期でもある。一般生活ではiPhoneやFacebookなどはベトナム国内では未だ大多数が利用していない期間であり、若者向けカルチャーなどもまだまだ揺籃期といった感じであった。


当時、筆者がホーチミン・ハノイの街をランニングすると、かなり奇異な目で見られたことを覚えています。今では信じられないですが、当時はまだ健康ブーム・ランニングブーム・フィットネスブームはまだなく、街を全速力で走るような人は外国人以外ほとんどいなかったのですね。2020年との違いという意味で、今思うと少し象徴的だなと感じます。

感覚的な言い方ですが、人々の「視線」が変わったなという気もいたします。


ベトナムの都市圏も道端にはまだゴミが溢れており一昔前の街の雰囲気。

道の舗装もまだまだ進んでおらず、街歩きするにも一苦労という感じでした。

特にハノイの街は「昭和40・50年代の日本」という言葉がぴったりな風情でした。



2011年・12年ともにインフレ抑制・マクロ経済の安定を経済政策の最優先事項としておいた結果、GDP成長率5.9%→5.0%と2009 年の 5.3%を下回る経済成長率。


■2012 年ベトナムの社会経済開発計画

「ベトナムのインフレ抑制を最優先課題とし,マクロ経済安定に努め,リーズナブルな成長率を達成すると共に,経済の質及び競争力の向上を図るべく成長モデルの転換及び経済再構築を進める」として,経済成長率は 6-6.5%,物価上昇率を 10%以下に抑制,輸出総額 13%以上増加


2013年のベトナム経済成長率は5.4%と前年からは伸長したが目標の5.5%には及ばず。一方、CPI上昇率は年間6.6%と最も低い結果となりマクロ経済の安定は進む。FDI全体数値は前年より下がるも日本からの投資額は国別では最高額となる上昇。また、サービス業GDPの伸び率が6.56%と過去10年で最高の伸び率を示す。


※主な出来事

・2011年:Pizza4ps、ホーチミンに1号店開店

・2011年:東日本大震災チャリティマッチがホーチミン・トンニャットスタジアムで開催。三浦知良・中田英寿・パク・チソンらが来越しプレー。

2011年:サッポロビール進出

2011年:リクルートエージェントベトナム現地法人設立

2012年:ミニストップ、ホーチミンに1号店

・2012年:東京急行電鉄株式会社とビンズン土地公社の合弁会社ベカメックス東急設立

・2012年:日本食のみの屋台村「Tokyo Town」がホーチミンに開店

・2012年:日系IT企業進出・設立が相次ぐ・・・BrSE・IT Comtorの隆盛の端緒

・2013年:三洋電機ベトナム子会社横領事件、日本人被告に終身刑判決

2013年:スターバックスコーヒー、ホーチミンに1号店開店

2013年:ダンキンドーナツ、ドミノ・ピザ開店

・2013年:ビンコムメガモール・ロイヤルシティ、ハノイに開店

・2013年:ベトジェットエア、民間航空会社として初の国際線開業(ホーチミンーバンコク)

・2013年:Vo Nguyen Giap将軍、死去

・2013年:Lemon Teaブーム

・2013年:改正労働法施行

・2013年:エン・ジャパン、ナビゴスグループを買収

・2013年:日越国交樹立40周年・・・1月に安倍晋三総理大臣が訪越



 2011年第11回共産党大会※
「3つの戦略的突破口」「成長モデルの刷新」というスローガンが打ち出され、2020年のベトナム工業国入りに向けた経済政策・指針が発表された。

その10カ年戦略では「経済発展、成長モデルの刷新、経済再編」のための方向性として、マクロ経済安定、農業、工業、サービスの発展、インフラ建設、文化発展、保健医療サービス向上、教育訓練の拡充、科学技術の発展、経済発展との調和の取れた文化・社会発展、環境の質の改善と気候変動への対応、独立・主権、領土の保持といった 12の「発展の方向性」が示されていた。   



【2014年:不景気ながらも回復はじまる】・・・ベトナム貿易黒字


※この年ぐらいから、ベトナムでもiPhone・Mac Bookなどアップル製品の所有者が増えたという実感があります。街のカフェでノートパソコンを開く若者もこの頃から増えました。

また他の都市に先駆けてホーチミン市に清掃員が導入され街並みの清潔度が大幅に改善されました。道に落ちてるゴミが大幅に減り、ホーチミンと他の都市の街の雰囲気にギャップがあるなとしみじみしたものです。公園などにゴミ箱が設置されたのもこの頃です。


■ベトナム経済成長

経済成長率は 5.98%増(速報推計値)。

政府目標5.8%は達成、直近3年では最高水準となり景気回復基調が見える。

この年の経済成長は外資を中心として製造業(対前年比8.45%増)が主役となった。また個人消費も対前年 6.3%増と徐々に内需拡大が見えてきた1年といえる。


■課題とその克服

インフレの抑制に成功した1年となる。CPI 上昇率は年平均 4.09%増となり、ベ トナム政府の当初目標である「7%以下」は達成。 インフレ抑制に成功した背景には、食料品等の価格上昇、医療・教育等の行政サービス提供にかかる コストの値上げが抑制された。また住宅・建設資材の需要が弱く価格上昇が抑えられた 。さらに、2014年下半期の国際的な原油価格の下落は、石油関連製品の輸入コストの低減という形 で、ベトナム国内の各セクターでのエネルギーコストの低減に寄与したと言われている。


※主な出来事

・マクドナルド1号店、丸亀製麺1号店、ホーチミンに開店

・反中デモ勃発・・・ベトナム海域に集中する排他的経済水域で石油掘削リグ設置が行われたことを端緒とする

・スターバックスコーヒー、ハノイ1号店(ベトナム4号店)開店

・ドンナイ省・Long Duc工業団地開業

・ハノイ・ノイバイ空港新ターミナル開業

・湘南美容整形、銀座マツナガ、ホーチミンに開店

・牛角1号店、ハノイに開店

・Grab Taxi、Grab Bikeホーチミンでサービス開始

・Lotte Center Hanoi開業

・VNG Corporation(https://www.vng.com.vn/)がWorld Startup Reportにてベトナム国内企業初かつ唯一のユニコーン企業としての評価を受ける


ハノイ・西湖の夕暮れ/2014年

※ハノイ・西湖の夕暮れ/2014年



【2015年:GDP成長率目標達成、ベトナム本格的な回復】


※この頃にはベトナムの街並みも人も現在にかなり近づいてきました。外国人旅行者も大幅に増加し、若者たちがiPhoneを手にするようになったのもこの年前後です。その若者の象徴の1人とされる、ベトナム人女性ラッパーのSuboi(翌2016年、オバマ大統領来越時に彼の前でラップを披露した)がアメリカでのデビューアルバムをリリースしたのもこの年です。

このSuboiさんですが、その後宇多田ヒカルさんとの共演も果たすなど、これからさらにビッグネームになるかもですね。


ご存じない方にSuboiの1曲「N-Sao?」をどうぞ。



その年の7/20付NewYork Timesではこんな特集が掲載されました。当時ベトナム国内の都市部でも流行り始めていたルーフトップバーの様子とホーチミンの盛り上がりをかけ合わせたようなTitleです。


「Capitalist Soul Rises as Ho Chi Minh City Sheds Its Past」

(資本主義者の魂、宙空に舞い上がり、ホーチミンシティは来し方を脱する)


ここでは、米国との戦争の結果、最貧国まで陥ったベトナムが今、どのように資本主義的システムを取り入れ、豊かになっていこうとしているかが描かれています。記載にもあるよう、既にホーチミンは非定住者も含めると1200万人都市になっていました。

ホーチミン ルーフトップバー


また、ハイフォン-ハノイ間、それまではバスで5号線をえっちらおっちら行くか、列車で片道4時間かけていくのものでしたが、高速道路が完成し両都市のアクセスが急激に良くなったのもこの年です。


■ベトナム経済成長の動向


経済成長率は 6.78%増となり,直近 8 年間で最高水準。

ベトナム政府の当初目標 である「6.2%」は達成され,ベトナム経済が回復基調にあることがうかがえる。 この年の高水準の経済成長は前年同様,外資を中心とした製造業(対前年比 10.6%増)が牽引した。また個人消費を中心とした内需面も回復傾向にあり対前年比 8.4%増の回復基調となった。


■ベトナム物価等の動向

CPI 上昇率は年平均 0.63%増。2000年以降最も低い数値となり、政府目標の5%を達成。 国際的な原油価格の下落が続き、石油関連製品の輸入コストが下がり、各セクターにもその影響が及び結果全体的なコストダウンとなった。その他、グローバルでの農産品の需要減に対し国内の食料品・食材の供給量が高次元で安定した結果、インフレ抑制を達成できた。



インフレ上昇率の抑制と経済の安定成長は銀行の貸出金利の若干の下落をよび, その結果銀行貸出残高の増加率は前年比 17.29%増加まで上昇。政府目標(13%~15%増)を達成。

→2019年までのベトナム安定成長・内需拡大の要因の息吹が感じられる


※主な出来事


・東急電鉄グループ、ビンズン省ビンズン新都市内に高級コンドミニアム「Sora Garden」竣工

・大戸屋、ホーチミンに開店

・Mikuni Dental、ハノイにて開業

・イオンモールハノイ1号店開店

・お好み焼き千房、ハノイに開店

・Nguyen Thi Anh Vien、第28回SEA Game水泳競技で金メダル4個を獲得

・ホーチミン地下鉄建設、さらに本格化。車両モデルが一般公開される

・通貨ドンの切り下げを3回実施

・Christian Louboutinの口紅がFacebookなどによるオンラインでの口コミにより大ヒット

・日本人経営の二郎系ラーメン店「Ramen Eno」がホーチミン5区でオープン。10区に移転後もその味と30,000VNDの安さからFacebook・口コミにより地元住民・学生を中心に話題となる

・ハノイーハイフォン高速道路105.5kmが全通

・ベトナム戦争終結から40周年

・改正住宅法が施行され、外国人の住宅所有が認められる

・ハノイ、ニャッタン橋が完成。ハノイ市内-ノイバイ空港の移動所要時間が15-20分程度短縮される



【2016年:目標未達成ながらもさらに順調に回復】・・・2年ぶりの貿易黒字


この年、ホーチミンの高島屋がオープンしたのもありますが、日本食ブームと申しますか、ラーメンブームのようなものがホーチミン・ハノイと起こりましたね。

遅れてきた日本ブームのような雰囲気を不思議な感じで見ておりました。今、ベトナムにいらっしゃる皆さんもこの頃から駐在・在住開始された方も多いのではないでしょうか。

この年からベトナム人の訪日ビザ取得要件が緩和され、各旅行会社が一気に日本ツアーキャンペーンを開始したというのもありました。国全体に好景気感が芽生え始めてました。



■ベトナム経済成長の動向

経済成長率は 6.21%前年の 6.68%を下回り政府目標の6.7%も未達成。

一人あたりのGDPは2215USDまで成長。


ベトナムでのサービス業・製造業・建設業は堅調に推移したものの、それ以外の産業の成長が足踏み。特に鉱業はマイナス4.0%成長まで落ち込んだ。原油・石炭産出量が価格低迷により不振。一方、農業では北部の寒波・中部/南部での干ばつ・塩害、中部での洪水により、成長率が1%以下と伸び悩んだ。



■ベトナム貿易動向

輸出額は電子製品や携帯電話の輸出増加等の影響により対前年比 9.0%増 の 1766 億USD,輸入額は同 5.2%増の 1741 億USDとなり,貿易収支は 25.2 億USDの黒字とな り,2014 年以来の貿易黒字を記録した。政府目標の輸出額対前年比 10%増の目標は達成できな かったが,中国やタイなどの近隣諸国が対前年比で輸出額の減少に直面しているなかで,比較的好調を維持した。


■FDI

外国直接投資実行額は過去最高の前年同期比 9%増の 158 億USD。

一方、外国直接投資認可額は前年同期比 8%減の 209.5 億USD。新規投資(2556 件)は同 2.5%減の 151.8 億USD、追加投資(1225 件)は同 19.7% 減の 57.7 億USD。


※主な出来事

・Apple社、ベトナム法人での事業開始(法人設立は2015年)

・国内の新規設立企業が初の10万社突破

・高島屋ベトナム、ホーチミンに開店

・Zara、ホーチミンに1号店開店

・Grab Bikeアプリがリリース

・オバマ米大統領来越

・Grab ・Uber共に利用者急拡大

・訪日ベトナム人数は23万人を超え過去最高を記録



ベトナム 通勤ラッシュ

<トピック>

〜ドイモイ政策以降示された、ベトナム経済・社会報告について「2016~2020年経済・社会発展5カ年計画」から見える、2020年のベトナム経済予測〜


これですが要は、2011年に「3つの戦略的突破口」と「成長モデルの刷新」 という打ち上げ花火を上げましたが、実際のところ2015年までにどれだけ達成されたのか?それを踏まえて、2016-2020はどうやっていくのか?というお話。




●過去20年の経緯  
・1996年第7回党大会: 「2020年までにベトナムは基本的に近代的な工業国になる」ことが長期的な目標と設定された
・2001年第8回党大会: 「社会主義志向の市場経済化」、すなわち国家部門、民間部門、外資部門といった各所有形態の一体的な発展とその後繰り返される経済発展の基本姿勢が打ち出された。  
・2011年第11回党大会: 「3つの戦略的突破口」、「成長モデルの刷新」というスローガンが打ち出され、工業国入りに向けた加速が期待された。   

■2016年初頭、共産党全国大会及び国会で2010年代後半の経済政策・目標が示された。

・2011~2015年経済・社会発展任務実現の結果の評価と2016~2020年経済・社会発展の方向性と任務に関する報告
原文http://www.mpi.gov.vn/pages/tinbai.aspx?idTin=1552&idcm=195

・2016~2020年経済・社会発展5カ年計画
原文http://www.mpi.gov.vn/pages/tinbai.aspx?idTin=43622&idcm=196

参考資料・・・細かい内容はこちらに丁寧に日本語で記載されています。今回も大いに参考にさせていただきました。
http://www.ide.go.jp/library/Japanese/Research/Region/Asia/Radar/pdf/201604_sakata.pdf


そして、この2016年「ベトナム5カ年計画」で最も注目されたのが

「2020年にベトナムは工業国入りできるのか」


というトピック。


この報告では2015年終了時点で 2020 年までに近代的な工業国となるための 基礎を作り上げることができなかったことを認めている。

下記の数値、今年2020年末にはどのような結果になるでしょうか、楽しみですねー






  「5カ年計画」で示された、工業国の定義・基準値 /2020年の予測値(カッコ内)
 
               定義基準値              2020年のベトナム
・ 一人当たりGDP:2010年価格で5000USD以上      /3200-3500USD
・ GDP に占める製造業の割合 20%以上            /15%
・ GDP に占める農業の割合 10%以下             /15%
・ 全労働者に占める農業労働者の割合20-30%       /40%
・ きれいな水を使える人口の割合100%             /92%
・ 人間開発指標(HDI)0.7以上                  /0.67
・ 訓練を受けた労働者の割合55%以上              /25%
・ 一人当たり発電量3000kWh以上                /2800kW
・ ジニ係数     0.32-0.38                 /0.38-0.4
・ 都市化率     50%以上                     /38-40%                                    


参考資料http://www.ide.go.jp/library/Japanese/Research/Region/Asia/Radar/pdf/201604_sakata.pdf




【2017年・ベトナム絶好調期突入】

・・・2007年以来10年ぶり本格的な内需拡大


"弊社Grasp!の創業年であります!!"


■ベトナム経済成長の動向

経済成長率は 6.81%となり前年の 6.21%を上回り2008 年以来最も高い成長率を記録した。政府目標6.7目標も達成。製造業,建設業共に好調で成長を牽引しサービス業も堅調に推移した。一人当たり GDP は 2385USD。


■貿易

ベトナムの輸出額は外資企業を中心とした電子製品や携帯電話の輸出増加等の影響に より対前年比 21.2%増の 2140 億USD、輸入額は同 20.8%増の 2111 億USDとなり、貿易額は 4000 億USDを突破した。貿易収支は 29 億USDの黒字となり、2 年連続の貿易黒字を記録 した。


ベトナムの輸出額では携帯電話本体・部品、PC・電子機器・電子部品がいずれも30%以上の増加。農水産品も果物・野菜が40%以上、カシューナッツ、米も20%以上増加。

輸入では電子製品が好調であった。




■FDI

認可額は前年同期比44.4%増の358.8億USD。

実行額は前年同期比 10.8%増の 175 億USDとなり,認可額・実行額ともに好調に推移した。


日本からの対越投資は新規・追加・株式投資の合計金額は,各国・地域中第 1 番目の 91.1 億USD。以下,韓国(84.9 億USD),シンガポール(53.1 億USD),中国(21.7 億 USD)


※主な出来事

・2017年:天皇皇后両陛下(現上皇上皇后両陛下)、ベトナムご訪問


ハノイ某ホテルでの両陛下

※写真はハノイ某ホテルでの両陛下・・・知人からいただいたものです(Tさん、ありがとうございます)



・セブンイレブン1号店、ホーチミンに開店

・H&M1号店、ホーチミンに開店

・インターネットユーザーが5,000万人を突破

(2016年47,300,00人→2017年52,000,000人)

・日本に在留するベトナム人技能実習生がはじめて10万人を超える(全体25万人の42%)

・共通投資法改正、条件付き投資分野が緩和される。緩和された分野は下記。


◆警備事業◆弁護士業務◆会計サービス事業 ◆保険事業◆カジノ事業◆物流事業 ◆職業紹介サービス事業◆不動産事業 ◆留学コンサルティングサービス事業 ◆化粧品生産◆宿泊施設運営事業 ◆広告宣伝事業



【2018年:2年連続の絶好調期】


ベトナム在住10年の筆者にとってはつい最近という感じもする2018年ですが、この年はTPPが発効し徐々に2020年代への準備という雰囲気も出始めた年です。前年から続く新築マンションの供給・販売が好調のようで、不動産業界及び関連業界の景気のいい話が聞こえてき始めたのもこの頃でしょうか。


■ベトナム経済成長


経済成長率は7.08%。GDP実質成長率が7%台を上回ったのは2007年以来ベトナム政府は2018年のGDP成長率目標を6.5-6.7%と設定していた。 金額ベースの名目GDPは2,372億USD(5,535兆VND)。 一人当たりGDPは2,587USDとなり,2017年から198USD増加


■FDI


認可額は-1.2%の354.6億USD。

実行額は+前年比9.1%の191億USD


●国別合計投資額


1位日本(86億USD)

2位韓国(72.1 億USD)

3位シンガポール(51億USD)


●ベトナム大型案件

・住友商事などが手掛けるハノイ・スマートシティー計画:新規投資額41.38億USD

・韓国・暁星グループによるバリアブンタウ省の石油化学施設:新規投資額12.1億USD

・シンガポール・トゥアティエン=フエ省のリゾート開発事業:追加投資額11.2億USD

・韓国LGグループ・ハイフォンのカメラ製造工場:追加投資5.1億USD

韓国LGグループ・ハイフォンのディスプレイ製造:追加投資5億USD


■海外労働者派遣

2018年,28カ国に約142,860人(前年比7%増)のベトナム人労働者が海外に派遣され,年間目標11万人を12.72%上回った。

2018年の国別・地域別派遣国を見ると、日本へは68,737人が派遣されベトナム人労働者の最大受け入れ国となった。次いで台湾へ65,369人,韓国へ6,538人を派遣。現在,海外で働くベトナム人労働者は約54万人おりベトナムへ年間約30億USDの送金がある。

2019年の労働者海外派遣目標数は12万人

(ベトナム労働・傷病兵・社会問題省(MoLISA)海外労働者管理局発表に

基づく)


※主な出来事

・ベトナムサッカー男子、U-23アジア選手権での準優勝により国民的なフィーバー。

・タピオカミルクティブーム

・ホーチミンにLandmark81(東南アジアで最も高い高層ビル)が開業

・ホーチミンにCoCo壱番屋1号店が開業(V Lotus Investment社によるフランチャイズ店)

・UBER Vietnam,Grabによる事業買収でベトナムから撤退

・ASEAN物品貿易協定によりベトナムでは2018年からASEAN域内での関税が撤廃

・米国抜きのTPP(11カ国参加)が発効

・VINGROUP傘下のVINFASTが初の国産自動車3種類、と電動バイク1種類の販売を開始



ベトナム ホーチミン ランドマークタワー


【2019年:好調期は維持するもののやや陰りが】

・・・111億ドルと過去最高の貿易黒字額を達成


■ベトナム経済成長率の動向

実質GDP成長率(推計値)は前年比7.0%。政府の目標値6.6~6.8%を上回り、前年に続いて7%台の高成長を維持した。


※2020年のGDP成長率の目標は6.8%に定められているが、統計総局のグエン・ビック・ラム局長は「経済成長の大きな役割を担う製造業が直近3年間で最も低い成長率となり、「2019年第4四半期に特に落ち込んだ」と述べ、2020年以降も同じ傾向が続くのではないか、と懸念する。


■FDI

認可額は前年比+7.2%380億1911万USD(約4兆1000億円)

実行額は前年比+6.7%増の203億8000万USD(約2兆2000億円)

2018年に続き、認可額・実行額ともに好調に推移した。

●国別合計投資額

1位韓国(79.1 億USD)・・全体の21%

2位香港(78.7 億 USD)

3位シンガポール(45 億USD)

4位日本(41.37億USD)


●ベトナム大型案件

・韓国・複合競馬場建設案件(ハノイ市):新規投資額4.2億USD

・韓国・LG Display社の有機EL Displa:工場案件(ハイフォン):追加投資4.1億USD

・台湾・佳世達科技(Qisda)の液晶Display工場案件(ハナム省):投資額2.63億USD



■貿易

ベトナム税関総局によると、2019年の輸出は2,641億8,937万USD(前年比8.4%増)、輸入は2,530億7,092万USD(6.8%増)。貿易収支は111億1,845万USDと4年連続の黒字になるとともに過去最高の黒字幅を記録した。


●輸出相手先

1位米国:613億4,659万USD(29.1%増)

2位中国:414億1,409USD(0.1%増)

3位日本:204億1,264万USD(8.4%増)


米国向けは一部の農産物や原材料などを除いて幅広い品目で輸出が増え大幅な伸び率となった。


●輸入相手先

1位中国:754億5,194万USD(15.2%増)

2位韓国:469億3,458万USD(1.4%減)

3位日本:195億2,552万USD(2.5%増)


●貿易収支

米国が469億8,120万USDの黒字(35.1%増)

中国340億3,785万USDの赤字(40.9%増)




※主な出来事

・AFCアジアカップUAE、準々決勝で日本とベトナムが対戦、1-0で日本勝利。

・ハノイで第2回米朝首脳会談が開催され米国のトランプ大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がベトナムを訪問。

・在越日本人のSNS投稿が話題に、日本国内でも報道される

・杉良太郎日本ベトナム特別大使がベトナム政府より三等労働勲章を受章

・世界的なJazzギタリスト、Bill Frisellが来越。ホーチミンでLiveを開催

・UNIQLO,ホーチミンに1号店開店

・サイバーセキュリティ法が施行

・ハノイ及びベトナム北部の都市部で大気汚染が悪化

・日本国内における技能実習生の労働環境などが社会問題として顕在化

・第30回SEA Gamesでベトナム男子サッカーが60年ぶりに金メダル獲得

・Bamboo Airwaysが国内線・国際線ともに運営開始。

・改正労働法、11/20の第14期第8回国会において成立し12/6に交付。2021/1/1より施行。

→「企業管理者」の試用期間が180日以内に、ベトナム人を配偶者に持つ外国人の労働許可証取得が不要、祝日が年間10日→11日に。



【まとめ】


この10年、ベトナム経済がどれだけ成長し先進国対比でどのような位置づけになったのかを可視化してみました。一人当たりの購買力平価GDPという指標で見ると、ベトナムは2008年3,925.23USDに対し2019年8,065.70USDと2.1倍に増えています。同年比較では中国が2.6倍の一方、米国・日本は1.3倍にとどまっています。


"この10年でベトナムが産出した一人あたりの経済的付加価値"額、2008年には日本/ベトナムで8.9倍もの差がありました。それが2019年には5.6倍にまで縮まっています。対米国では2008年12.3倍、2019年8.1倍。対韓国では2008年7.3倍、2019年5.5倍です。一方、対中国は2008年1.9倍だったのが2019年には2.4倍に広がっています。

いかにこの10年中国・ベトナムが成長し、特に日本が伸び悩んだかがわかります。


一人当たりの購買力平価GDPの推移とベトナム対他国比較

また、ベトナムの一人あたりGDPですが、1990年は95USDで全世界210位。2010年で1310USDで170位。2018年には156位で2538USDまで成長しました。

しかしこの統計、今年2020年に再算出されたらしく、発表されてる2017年で2985USDだそうです。


2016年に出された政府目標2020年で3200-3500USDは果たして達成なるのか!?




【最後に】


細かいことはそれぞれでいろいろありますが、総じて在ベトナム日本人にとってはバラ色とは言えないまでも挑戦・変化の10年であったかと思います。21世紀になって高度経済成長をまさかよその国で味わうことになるとは筆者自身にも思いもよらないことでした。


またこの10年はベトナムに関わるビジネスパーソンの間で「チャイナプラスワン」や「ベトナム人は真面目で勤勉」など今はもう言い古された言葉が瀰漫した期間でもありました。

なんとかこの新興国を理解したい・ビジネスチャンスをものにしたい・ベトナム通でありたい、という欲求に対してちょっとしたわかりやすい結論・説得力を付与する便利なおまじないのような言葉だったのかもしれません。


持論ですが「ベトナム人は勤勉」というのは1979年に社会学者エズラ・ヴォーゲルが著した「ジャパン・アズ・ナンバーワン」からの引用的かつ安易な他文化理解、要はレッテル貼りの一種です。「古き良き日本の面影を未だに残しているこの国をそのように当て嵌めたい」「我々と似ていて欲しい」「自ら美徳とする行動様式/思想的共通点を他文化に対して見出したい」というような欲望に対するマーケティング的要素が散りばめられたバズ用語です。そうしたバズ用語に釣られて誤解・思考停止した態度は、2010年型ベトナムビジネスマインドであったとしてそろそろ葬り去りたいところです。

また、こうした態度は筆者も含めた多くの日本人が省みるべきことであり、今後のために、安易な落とし所で他国人・異文化に対しわかったふりをしないためにも常に自戒しなければいけない現象であったと見据えておくべきです。


渡辺京二の名著『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)巻末の解説文で平川祐弘は「共感は理解の最良の方法である」と述べています。

私はこの言葉通りに受け止め、この国での日々を過ごしたい。

平川の言葉を借りれば、思想・経済的/政治的立場に自らを依せた「知新」によりベトナムの文物・人 を捌くのではなく、人々の有様・生活の細部から「温故」を見出し共感することでありのままをみて理解したい。なおこの場合、理解は完結ではなく永続的な過程であることは言うまでもない。


ベトナムという国の美しさや魅力は日本や他国とは似てるようで似ていない、容易に理解や言語化を許さない唯一無二のものである事を再認識する必要があります。その掴みどころのなさにこそ学びがあり尊さがさらに育まれるものであると、筆者自身、在住生活が長くなるにつれて益々その思いを強くしています。この国で生きていく外国人としてそのさまざまな恩恵を授受しつつも経済的な関係性を越えてさらにベトナム社会や人々に何らかの貢献をしていきたいと考えます。



これを書いている今の状況をみるとまさに大波乱の幕開けとなった2020年代ですが、ここ最近のベトナム政府を見てください。国内ではCOVID-19をうまくコントロールし対外的には日本も含めた先進諸国に無償でのマスク提供をはじめています。


https://e.vnexpress.net/news/news/covid-19-care-vietnam-gifts-100-000-face-masks-to-sweden-4086521.html


まるでリーマンショックからの世界的不景気をよそ目に、抑制の効いたマクロ経済安定政策を通じて見事に高度成長を実現したベトナムの2010年代の再現にも思えてきます。


物心の価値、社会の仕組み、人間の生き方、モラルそのものが変化していこうとする2020年代の世界において、ベトナムと日本がいかに手を取り助け合っていくことができるのかがとても楽しみです。

ホーチミン・ハノイは地下鉄/都市交通の開通、それに伴うさらなる都市化の進展。スマートシティの完成。ホーチミンではロンタイン国際空港の開業も待たれるところです。ビンズン新都市はベトナム版東急田園都市となるのか。ダナン・ハイフォンの独自発展も非常に見ものです。



そうした状況に関わっていく上で、2010年代のベトナムがいかに前進・後退してきたかを理解することでより深みをもって、ベトナムビジネスに対峙していけるのではないかと筆者は信じています。



参考資料

https://www.jetro.go.jp/world/asia/vn/basic_03.html

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