“現在が過去になるように 決まり事はどんどん崩れていく。 そして先頭にいる者が、一番後ろになる 時代はいつだって変わりゆくんだ"
「時代は変わる」 - ボブ・ディラン
ボブ・ディランの名曲「The Times They Are a-Changin」が頭に浮かんだのは偶然ではありません。私達は変化の速い社会に生きており、それは劇的かつダイナミックです。
15年前までは、人はその人生において一つの仕事にしがみつくのが常識でしたが、今では、突然その仕事を失ってしまうこともあります。今日では、突然解雇されたり、テクノロジーの断片にすぎないものや、経験は少ないが技術志向を持った従業員と入れ替わったりすることがあります。テクノロジーは産業の隅々まで浸透し、革命を起こしています。金融トレーダーは、アルゴリズムや自動化された取引に取って代わられています。社会科学者は、定量的な研究のためにコーディングやプログラミングを行うようになりました。マーケティングはオンラインと仮想プラットフォーム上で行われています。オンライン・スクールが一般的になり、企業は従来の職場よりも在宅ワークスタイルを採用するようになりました。
私たちが現在経験し、目撃していることは、「第四次産業革命」と呼ばれています。それは前の産業革命の基礎の上に構築されており、その特徴は物理学・デジタルおよび生物学などが境界が曖昧なまま融合している点です。それはあらゆる産業における雇用にまさに「4度目」の重大なインパクトをもたらすでしょう。私たちが今知っている仕事は10年後には存在しないかもしれないし、いまだかつて存在すらしなかった仕事が将来的には人口に膾炙し、高需要な仕事となりうるかもしれない。
私は今、自らを経済学者とは思いませんが、これまでのキャリアではビジネスにおいてもアカデミックな面でも最もフォーカスを当ててきた分野です。そして、この不確実で急速に変化する時代に、雇用市場がどのように機能し、どのように変化しているのかをというアイデアを探究・注視することに興味をそそられます。この論考は3回に渡る連載とし、グローバルとローカル両方の雇用市場をカバーします。
1. グローバルな雇用市場
第四次産業革命の技術進歩の波がもたらす変化を雇用市場に反映させるためには、具体的なエビデンスに裏打ちされた多面的な分析が必要である。一般的には、第四次産業革命の技術的ブレークスルーによって、人間が行う手作業や労働作業の領域が、機械やアルゴリズムによって行われる作業に急速に移行すると考えられています。これに呼応して、グローバルな労働市場はこうした移行を反映するように変化していくだろう。そこで筆者は、世界の雇用市場を「将来の求職者数」「雇用されているポジション」「今後の期待」の3つの次元で見ることにした。
将来の求職者数の構造的変化は、教育機関における学士号取得者数の推移によって認識することができる。現在でも最も先進的で産業を重視した教育を行っている、という理由から米国でのデータを代表的な母集団として採用した。
(出典: 米国連邦教育統計センター (2020). 教育統計ダイジェスト(2019 )
まず、ビジネス、コンピュータサイエンス、教育、工学、ヘルスケア、社会科学の6つの専攻分野のデータが得ることが出来た。ビジネスと社会科学は人気のある分野であるが、それらの分野を専攻する学生は徐々に減少している。逆に、コンピュータサイエンス、エンジニアリング、ヘルスケア、バイオテックなどのテクノロジー関連分野への関心が高まっており、二桁台の伸び率で継続的に増加している。
教育環境の変化は、企業や社会の構造変化を強く反映しています。第四次産業革命がすすむつれ、新たに出現する技術は生産・消費の両面で高生産性の達成を試みる企業により導入され、新しい市場への参入を促し、ますます増えゆくデジタルネイティブ世代で構成される「グローバルな消費者」に向けた市場で競そわれる。求職者はこうした新しい技術やスキルセットを習得するという課題に直面しており、それはテクノロジー専攻の需要の増加に反映されている。
世界経済フォーラムが調査した短期的な雇用市場の見通しでは、従来の職種から、より革新的で技術的な職種へと需要がシフトしていることが明らかになりました。具体的には、調査対象企業では、データ入力、会計・給与計算、秘書、監査役、銀行のテラー、キャッシャーなど、業務手順が日常的で、最低限のスキルのみを必要とする従来型のホワイトカラー職の需要が減少すると予想しています。これらのエントリーレベルのポジションは、新しい技術の進歩に対して非常に脆弱であり、自動化や人工知能による置き換えにさらされると予想されています。
企業調査による需要の高い職種と減少傾向
(出典: 「雇用の未来レポート2018」-世界経済フォーラム・リンク)
近い将来、企業は労働力に対しビジネス拡大のための生産性向上の役割を期待するようになり、変化の激しい消費者の嗜好を満足させるために、市場分析やユーザー分析ツールをビジネスに積極的に取り入れるでしょう。このように、ユーザーや企業のビッグデータ分析、アプリやウェブ対応の市場、機械学習、拡張現実、今後数年間で需要が高まり、人材不足に陥ると予測されています。AIや機械学習の専門家、ビッグデータの専門家、プロセスオートメーションの専門家、情報セキュリティのアナリストなど、かつては異質な概念であったような役割が、変化し続ける私たちの社会では当たり前の規範となりつつあります。
この傾向は、過去の採用実績データによってさらに具体化されています。デジタルマーケティングや人材関連の職種は、マーケティングスペシャリスト、データアナリスト、ユーザーエクスペリエンスデザイナー、人事スペシャリストなどのソフトウェアエンジニアリングと並んで採用傾向が高まっています。
アジア・太平洋地域における採用ポジションの推移(2013年~2017年 )
(出典:「雇用の未来レポート2018」-世界経済フォーラム・リンク)
第四次産業革命がもたらす社会と労働市場の構造変化は甚大です。労働力の変革はもはや遠い未来の一面ではありません。根本的なレベルで急速に起こっているのです。経営者側では、労働力の変化のトレンドは、一部の労働者を置き換えると同時に、他の労働者のための新しい機会を創造します。短期的には、それは一時的に失業の数を増加させることにもなります。正しくコントロールされた場合、これらの変革は、あらゆる人にとって仕事と生活のニュースタンダードによる新しい時代をもたらすことができますが、コントロールを誤った場合、それはより高い失業率、スキル格差の拡大、不平等と分極化の重大なリスクを引き起こす可能性があります。こうしたシナリオを回避するためには、企業や政府が積極的に労働市場の再構築や誘導を支援する役割を果たすことが望ましいかもしれません。
次回の記事では、世界のメガトレンドと合わせて、ベトナムの労働市場について考察したいと思います。現在のベトナムの労働市場の構造、スキルレベル、雇用の需要と供給について述べたいと思います。
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