※ブログ記事の最後にカオスマップ掲載企業のHPリンク集を掲載しております。
■ベトナムHR業界の特筆性
まずは、ベトナムHR業界における特筆すべき点について紹介します。
・ベトナムの第一次産業の従事者の割合が18.4%(2010)→15.3%(2018)となっており、産業構造の転換期を迎えている。
・ベトナムの経済成長率は長期間に渡って高いパーセンテージを維持しており、人材業界の需要が大きく成長している。
・日本におけるいわゆる「終身雇用制度」が無く、20歳代より転職を繰り返すことに抵抗がない。
・Linkedin、Facebook等のソーシャルリクルーティングが活発。
・2010年代以降の日系企業によるベトナムHR企業の買収などにより、日本のHR業界の影響を多分に受けている。
■ベトナム・人材業界におけるビジネスモデルの変遷
ここでは、日本のHR業界におけるビジネスモデルの変遷と照らし合わせながら、ベトナムHR業界のビジネスモデルの変遷をざっと解説していきます。
カオスマップのレイアウトを大きく俯瞰しますと、左上から右下の方向に向かって、新規に登場したビジネスモデルが配置されるようになっておりますので、カオスマップも同時に見ていただければと思います。
◎公的機関(1980年代〜)
ベトナムには多数の公的な職業紹介所が存在します。今回、カオスマップ作成に当たり、主要なものとして、ホーチミン市の職業紹介所、ハノイ市の職業紹介所、そして、ホーチミン共産青年同盟が運営する職業紹介所の3つを掲載しました。これら以外にも、各省ごとに職業紹介所が存在します。
やはり、社会主義国家であることから、公的な職業紹介所が充実していることは当然と言えます。
◎リクルートメントエージェント(1990年代後半〜)
日本における人材紹介サービスの起点は1977年に遡ります。この年、就職情報誌を主業としていたリクルートは関連会社として『人材情報センター』を設立します。これ以降、日本国内では人材紹介サービスが広がっていきます。
また、1990年以前における日本の人材紹介サービスでは、募集の依頼を受けた段階で手数料をもらう「リテーナーフィー(前課金型)」を導入していました。
一方、ベトナムでは、ASEAN加盟、アメリカとの国交正常化を果たした1995年以降に、民間の人材紹介サービスが生まれます。
まずは、1998年、First Alliance (現・Persol Vietnam)、 Talent Netが設立されます。
他、主だったものとしては
2006 Vieclambank
2007 Asahi Tech
2008 ICONIC
が挙げられます。
そして、2011年には日本の人材最大手リクルートが現地法人であるRGF Vietnamを設立します。
ベトナムの人材紹介サービスの特徴として、紹介した候補者が入社確定した後に、手数料が発生する「成功報酬型」がほとんどであるという点が挙げられます。よって、「前課金型」の代表とも言える『ヘッドハンティング』を行っている企業は片手で数えられるほどしか存在しません。
◎ネット求人広告(2000年代〜)
2002 Vietnamworks.com
2004 Tiemviecnhanh (Sieu Viet Group)
2007 CareerLink.vn
2011 Anphabe.com
2012 Jobstreet.vn
2013年には、IT業界に特化したネット求人広告『IT Viec』が設立されます。以降、IT業界に特化したネット求人広告・リクルートメントエージェントが増加します。流動的なIT業界においてはやはり転職需要が多く存在します。こちらはカオスマップにて『IT系リクルートメント』という別枠を設けて掲載しております。
◎日系企業によるベトナムHR企業の買収(2012年〜)
2010年代に入って以降、日系企業によるベトナムHR企業の買収が盛んに行われています。
以下、時系列順に主な買収の事例を列挙します。
2013 anphabe ▶ Recruit Global Incubation Partner
2013 Navigos Group(Vietnam works、Navigos search、PRIMUS) ▶ EN Japan
2013 Bo Le Associates ▶ RGF Hong Kong
2015 First Alliance ▶ TEMP Holdings(現・パーソル)
2019 IT Viec ▶ マイナビ
2012年以降の日系企業によるベトナムHR企業の買収が、ベトナムHR業界に大きな影響を与えているという点は、ベトナムHR業界を理解する上で重要なファクターと言えるでしょう。特に2012年当時に漏れ伝わってきたのはVietnamworksの買収をめぐる大手日系人材会社各社の動きです。桁違いに小さなベトナム人材市場は一定のポテンシャルはあったものの経営判断としては未知数であったのでしょう。2021年の世界のリクルートメント業界の現状を鑑みた上で振り返ってみると、非常に味わい深いものがあります。
◎HR Tech・新潮流(2010年代後半〜)
最後にHR Tech・新潮流について見ていきます。
HR Techの項目では、
① HRM(人事管理システム)
② Automation Matching(求職者の自動マッチングサービス)
③ Welfare Service(福利厚生管理システム)
④ Smart CV(CV作成ツール)
の4点を取り上げています。
また、HR Techの右側に『新潮流』という枠を設けていますが、こちらは既存のHR Techに類別ができないものを扱っています。
まず、新潮流のビジネスモデルとして、「ソーシャルリクルーティング」、「アグリゲーション型求人検索エンジン」の2点が挙げられます。
さらに、「ソーシャルリクルーティング」は、Linkedin、FacebookといったSNSサービス、Glassdoor等の口コミサイトの2つに大別されます。
ビジネスSNSとしては、Facebook、LinkedIn、FreeCが挙げられます。
これら3社についてはさらに新潮流である「リクルーティング・オートメーション」サービスへの展開の息吹も感じさせられます。
日本においては「自身の経歴をネット上に公開する」という文化があまり無いため、ビジネスSNSを通した転職は珍しいのですが、ベトナムにおいては欧米同様、経歴をオープンすることに抵抗が無く、また人材流動も激しいので、こういったビジネスSNSが活発化しています。
口コミサイトについて、まず日本での事例としては、現在日本最大の社員クチコミサイトとしてOpenWorkが挙げられます。OpenWorkは口コミサイトの運営がメインですが、リクルーティングサービスも同様に提供しています。
ベトナムにおいても、口コミサイトは多数存在し、主なものとしては、TopCongty.net、congtytot、Review Công ty、そして、グローバルな企業口コミサイトであるGlassdoorが挙げられます。
特に、Glassdoorは2018年にリクルートが買収を行っており、indeedとともに世界において人材ビジネスの展開を進めています。
最後に、アグリゲーション型求人検索エンジンとしてindeedが挙げられます。こちらは2012年にリクルートが買収をしており、ベトナム国内でも展開しています。indeedがベトナムでも伸びるのか、また似たような求人検索エンジンが生まれるのかについては今後に期待です。
ブログ記事作成にあたりましては、
『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(著・黒田真行、 佐藤雄佑)
の内容を参考にさせていただきました。
※カオスマップ掲載企業リスト&HPリンク集
最後に、カオスマップ掲載企業のHPリンクを紹介します。
日系、もしくはそれに準ずる企業については、赤色でハイライトしております。
◎リクルートメントエージェント(地場系)
Empolyment Vietnam
NIC
☆特化型
◎リクルートメントエージェント(外資系)
ROBERT WALTERS VIETNAM
People Profilers
◎リクルートメントエージェント(日系)
Yume Global Vietnam Branch
Reeracoen
Japan Vietnam Job
◎IT系リクルートメント
◎フリーランス・パート・学生向け
☆フリーランス
☆アルバイト・パートタイム
☆学生向け
◎ヘッドハンティング
◎公的機関
◎ネット求人広告
Jobsvietnam.org ロゴが見つからず未掲載
☆メディア系
☆特化型
◎人材派遣
Chồi Xanh ロゴが見つからず未掲載
☆特化型
◎HRテック
☆HRM(人事管理システム)
☆Automation Matching(求職者の自動マッチングサービス)
☆Welfare Service(福利厚生管理システム)
☆Smart CV(CV作成ツール)
◎新潮流
indeed(リクルート) アグリゲーション型求人検索エンジン
PRIMUS (Navigos Group) スカウトDB
☆ソーシャルリクルーティング
Zalo
☆口コミサイト
最後に・・・Grasp!代表・熊澤
本記事のカオスマップ及び本文は、熊澤の一部のアイデアを元に弊社インターン社員の
中村さん(ホーチミン工科大学の正規留学生)がメインでリサーチ・データ作成・マップ作成・本文執筆を行いました。 私自身、2010年代初頭よりベトナムのリクルートメント業界でのキャリアを開始しました。当初、日本国内の他業界から転職してきたことや勤務した会社の状況もあり、リクルートメントビジネスの実務そのものや業界慣習にも大きく戸惑いました。ベトナム経済が大きく成長した2010年代を語る上で、「個人の就業機会の拡大」は無視できない大きな要素・結果であり、その点においてリクルートメント業界が果たした役割は小さく無いと信じております。一方、ベトナム自体のビジネス環境がまだまだ未成熟な中、日本も含めた諸外国の影響を受けつつ勃興・成長しつつあったこともあり、人材サービスの品質やビジネスプロセスもまた未熟な点が非常に目立っておりました。業界ルールやモラルの整備・浸透も進んでおらず、言葉は非常に悪いですが魑魅魍魎的な業界内競争があった点もあります。そうした未熟さはユーザーである企業・個人に対して、また業界内で職務に従事する各社社員達にもネガティブな影響を及ぼした点があることも否めません。 それらの影響の元、私自身さらにリクルートメントビジネスのあるべき姿を追求すべく、2回の転職を経て自ら業を興し2021年現在も同業界での実務に従事しております。 新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、経済的な影響にとどまらず、個人の人生のあり方そのものに強い影響をもたらしております。「職業・労働・仕事・会社・キャリア」というコンセプト自体がパラダイムシフトを起こしており、今後その様相変えていくことは間違いないと言えます。そうした中で「リクルートメントビジネス」がどのように関わっていけるのかを考える上で、これまでの区切りとして、また今後の橋頭堡としてもベトナムのリクルートメント業界を網羅したいと思いこのカオスマップを作成した次第です。 このカオスマップにはいわゆる「送り出し機関」と呼ばれる技能実習生派遣・研修サービス会社は含んでおりません。日本国内の技能実習制度に対しては是非が色々あるのは既知ですが、必要悪と言うにしてもあまりにも問題が多い制度であり無批判に看過することは弊社としては出来ないと考えております。白黒つけるのは難しいとは理解しつつも、リクルートメント業界とは性質を異にすると考えております。米国国務省「2021 Trafficking in Persons Report(人身売買報告書)」においても日本の技能実習制度の実態は厳しく糾弾されております。
https://www.state.gov/reports/2021-trafficking-in-persons-report/japan/
また他にもベトナム国内で様々な違法・脱法行為を行っている人材業者・個人も存在し、それらも当社の判断基準としてこのマップには掲載致しておりません。
大上段で恐縮ですがやはり「業界の健全化」もこのマップの存在により一助となることを願って止みません。
また、類似業界・サービスとして「人事労務コンサルティング」がございます。ビジネスコンサル/戦略コンサルとの隣接という意味ではヘッドハンティングサービスと似通った点もございますが、採用・転職支援という趣旨からして今回の掲載は見送らせていただきました。「ベトナムHR業界カオスマップ」とせず「ベトナム・採用転職支援サービスカオスマップ」と銘打ったのもそのためです。
最後に弊社Grasp!はいわゆる「人材紹介」というワードも無批判に使わないようにしております。「人材紹介型」のサービスを行っている部分もあるのは確かですが、「採用支援・転職支援・キャリア支援サービス」が本質であると考えており、その性質の一部を切り取って自称することを良しと致しません。マップ及び文章においても便宜的な場合を除いて可能な限り「人材紹介」というワード使わないように致しております。
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